本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

プリンセス・トヨトミ/万城目学

三権から独立する検査機関・会計検査院で「鬼の松平」の異名を取る凄腕検査官が大阪府に調査に乗り込む。松平はキャリア試験をトップで通過した傑物で、些細な不正もゆるがせにしない厳格な検査官だが、濃い風貌を供えた渋い男でありながらのべつアイスクリームを買い食いする可愛さも併せ持っている。引き連れる部下、無邪気なKY男・鳥居と、ハーフ・容姿端麗・頭脳明晰な旭・ゲーンズブールの二人も異能の持ち主で、不毛な言い争いをしては笑わせてくれる。

会計検査院の検査対象にOJO(実は大阪国という独立国だ)という組織がある。特定の人物を守るために存続してきたものだが、守られるべき少女とその友人である少年がトラブルに巻き込まれ、これが大阪国の存続を揺るがす大事態に発展するのが本書の味噌である。

全体の設定は井上ひさしの「吉里吉里人」を思わせるのだが、どうも設定の説明が詳細すぎて物語の躍動感を中断させている。むしろ、少女として生きることを決意した真田少年の心意気の方がずんと伝わってきて、このあたりを中心に描いて欲しかったと思う。

大阪国の由来の謎解きなど、娯楽作品としてスリリングで面白くはあるが、発表誌が「別冊文藝春秋」であるせいか、どこか真面目を装った感じが見えるのが残念。