本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

SF・ファンタジー

ほんとうの花を見せにきた/桜庭一樹

竹の精である吸血鬼をモチーフにした連作集で、どれも読ませるが、第一編の「ちいさな焦げた顔」が特に胸に迫る。犯罪うずまく都市に暮らす主人公は、何人目かの継父のおかげで豊かな暮らしをしていたが、継父の不祥事により組織の報復を受けて母と姉が惨殺…

はかぼんさん 空蝉風土記/さだまさし

そこそこに名前も顔も売れている物書きの遭遇する不思議を情緒的に描いた土俗ファンタジーとでも言うべき連作集。主人公は「まっさん」と呼ばれる有名人だし、実在の人物をモデルとした登場人物もいるし、半ばドキュメンタリーか私小説かと思ってしまうが(…

バベル九朔/万城目学

一代で様々な事業を成功させた祖父から母親が受け継いだ雑居ビル「バベル」の管理人に収まり、作家になろうと文学賞応募作を書き続けている主人公の巻き込まれる特異な体験を描いたSFであろうか。以前の作品はファンタジー色が強かったが、今回は堂々の異…

Borelo 世界でいちばん幸せな屋上/吉田音

クラフト・エヴィング商會の吉田夫妻の娘という体裁の主人公吉田音が、知り合いの作家志望の円田さんと結成したミルリトン探偵局シリーズ第二弾である(前作は[ミルリトン探偵局1http://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20161022/p1:title=夜に猫が身をひ…

夜に猫が身をひそめるところ/THINK  ミルリトン探偵局1/吉田音

作者も主人公もクラフト・エヴィング商會の吉田夫妻の娘という触れ込みだが、実際は夫妻の作品らしい。なんとも紛らわしい。吉田夫妻の娘である音(おん)は中学生という設定で、一家ぐるみで付き合いのある円田さんの飼い猫Thinkが妙なものを持ち帰ってくる…

黒猫の小夜曲(セレナーデ)/知念実希人

高次の霊的存在である「道案内」は死者の魂を「我が主様」のもとに送り届けることを任務としている。魂が素直に従えば良し、この世に未練を残していると「地縛霊」となってなかなか「我が主様」のもとへ行こうとしないので、それを説得するのも役目であるが…

有頂天家族 二代目の帰朝/森見登美彦

猫の日だから狸小説(笑)。 糺の森に巣くう狸一家、下鴨家の三男、矢三郎の巻き起こすドタバタをユーモラスに描く京都ファンタジー有頂天家族の第二弾。矢三郎の父は、かつて京都狸界の頭領「偽右衛門」を務めた大物で、面白きことは良きことなりをモットー…

東京ローカルサイキック/山本幸久 

山本幸久作品と来れば好人物たちがドタバタと一生懸命に汗を流し、最後にほんのりハッピーエンドという読後感の良い小説だから、のっけから超能力者が登場する本作も、異能を持ってしまったがために苦労する者がユーモラスに描かれているんだろうと思いきや…

図書館戦争/有川浩

図書館の自由を守るために戦う図書隊の活躍を描く近未来ポリティカル・フィクション。このベストセラーを今頃読んでいる(笑)。昭和の終わりに、権力による検閲を可能にするメディア良化法が成立。出版段階ではなく、流通してからの検閲であることから、図…

ゆんでめて/畠中恵

「病弱若旦那一太郎と愉快な妖たち」が活躍するしゃばけシリーズは、面白くはあるものの毎度毎度同じような物語の繰り返しでいい加減飽きが来ており、この数年は新作に手が伸びなかったが、図書館の棚にあったので手にとって見たらきちんと面白かった(笑)。…

ちょんまげぷりん/荒木源 

江戸時代から現代に侍がタイムスリップしてきて天才パティシエになっちゃったら、というドタバタSF。仕事と子育てに挟まれ、ストレスの多い日々を送っているシングルマザー遊佐ひろ子の前に、やつれきった侍の木島安兵衛が現れる。当初警戒心を露わにした…

聖なる怠け者の冒険/森見登美彦

かつて朝日新聞夕刊に連載されていた小説が単行本化にあたり全面改稿されたもの。親切な正義の味方ぽんぽこ仮面に追い回される善良な怠け者という構図は変わっていないが、連載当時、なにか全体に薄味で中途半端な印象だったので、期待と不安相半ばで読んで…

本にだって雄と雌があります/小田雅久仁

とんでもない奇書である。本好きなら、本棚にいつの間にか知らない本が増えているという経験を持つ人もあろうが、それは本には雄と雌があって繁殖しているからだというのが本書の肝で、生まれてきた子供本(幻書)にまつわる挿話の数々が滑稽に猥雑にそして…

魔道師の月/乾石智子 

ダークファンタジーの傑作「夜の写本師」http://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20121202/p2では飄々とした老魔道師として登場したキアルスと、キアルスの友人となる頼りない魔道師レイサンダーの、共に青二才の魔道師二人の戦いと成長を描いている。今回…

夜の写本師/乾石智子

書物に書かれる文字で魔法を使う「夜の写本師」の復讐を描くダークな雰囲気の本格ファンタジーである。右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠を携えて生まれてきたカリュドウは女魔道師エイリャに引き取られ、育てられてきた。エイリャがエズキウムを支…

神様2011/川上弘美 

305号室に引っ越してきた妙に律儀で古風なくまと散策に出かけるという、他愛なくユーモラスな短編「神様」を、2011年3月12日の福島第一原発爆発事故後にリニューアルしたもの。オリジナル「神様」のくまさんは、葉書を持って引っ越しの挨拶に来たり、ちょっ…

裏閻魔2/中村ふみ

幕末の動乱で死にかけたところを、鬼込め(体内に鬼を呼び込むとこで願いが叶えられる)という禁忌の彫り物によって不老不死を獲得してしまった宝生閻魔の苦悩に満ちた長い生を描くダークファンタジー裏閻魔の第二弾。時代はすでに終戦後である。かつては妹…

突然に思い出す「百億の昼と千億の夜」

下記の写真を「弥勒降臨?」なんてふざけたタイトルのエントリーにしているが、実際は江ノ島の名物の一つである裸弁天をかたどったオブジェの並ぶ噴水である。美女である弁天像でなぜ弥勒菩薩を思い出したかというと、光瀬龍の華麗なSF「百億の昼と千億の夜…

f植物園の巣穴/梨木香歩 

文庫化にて再掲。 f植物園の技官である佐多豊彦が彷徨する妄想と記憶と不条理の世界を、「坊ちゃん」のような時代がかった文体で描いたノスタルジックなファンタジーである。時代は大正前後と思われる。主人公の佐多豊彦は狷介な男で、身ごもった妻女を亡く…

裏閻魔/中村ふみ

不老不死の呪いをかけられてしまった彫り物師の、幕末から第二次世界大戦終戦にかけての生き様を暗い情念と共に描いた時代ダークファンタジー。長州藩武家で後添いの次男として生まれた主人公一ノ瀬周は、実家の居心地悪さから若気の至りで討幕運動に身を投…

偉大なる、しゅららぼん/万城目学

琵琶湖にまつわる特異な能力を持つ一族の興亡を描いたドタバタファンタジー。琵琶湖西部の中学を卒業した日出亮介は、琵琶湖沿岸に根を張る有力一族「日出家」の分家筋で、湖東の石走(いわばしり)にある本家に寄宿し、高校に進学することになる。そして、…

パロール・ジュレと紙屑の都/吉田篤弘

元々ひとつの国であったものが、小さな対立からいくつもの国家に分裂した<離別>後の世界で、凍結される言葉(パロール・ジュレ)の謎を解くべくキノフに送り込まれた紙魚(しみ・本のページの間を這いずりまわり、紙を食害するするダニのごとき虫)の諜報…

ピスタチオ/梨木香歩

主人公は棚というペンネームを持つ40才ほどと思しき女性ライターである(ペンネームを考えているときに、ふいに画家ターナーから思いついたペンネーム)。棚は自然と深く同調していて、ややスピリチュアルに傾倒している感があり、自分のみの周りに起きる事…

統ばる島/池上永一

沖縄の風土ど土俗をモチーフにユーモラスなファンタジーを書いてきた池上永一は、このところ「シャングリ・ラ」「テンペスト」のようなスリリングな大作を発表していたが、本作は沖縄のさらの南の果てである八重山諸島の御嶽(うたき=祈願所)やツカサ(御…

ある人気作家新刊と「時をかける少女」

ある人気作家の新作(三ヶ月ほど前に出たもの)を読んでいて、この筋立ては「時をかける少女」へのオマージュかなぁと感じた(ネタバレになるので新作の書名は出しません)。時間トリックとそこに流れるリリシズムがよく似ているように思えたのである。で、…

ギフト/日明恩 

作家名は「タチモリ メグミ」と読みます(笑)。主人公の須賀原は警官を退職した男で、レンタルDVDショップの店員をしながら逼塞して生きている。追跡ののちに中学生を死に至らせてしまったため、心に深い傷を負っているのだ。仕事中、ホラー映画の棚の前で…

狐笛のかなた/上橋菜穂子

守り人シリーズの著者による、中世あたりの日本を舞台にしたファンタジーだが、切ない恋愛小説であり、土地を巡る近親憎悪の物語であり、呪者同士のサイキックな戦いの物語であり、隷属させられた使い魔たちの自立の物語であり、実にさまざまな要素を含んで…

虚空の旅人/上橋菜穂子

守り人シリーズではあるが女用心棒バルサは登場せず、かつて父王に謀殺されるところをバルサに助けられたチャグムの旅の物語となっている。新ヨゴ皇国皇太子チャグムは、同盟国であるサンガル王国の新王即位の儀式に招かれ、星読博士ジュガと共にサンガルに…

夢の守り人/上橋菜穂子

短槍使いの女用心棒バルサの活躍を描くファンタジー「守り人シリーズ」第三弾。異世界で数十年に一度咲く<花>は、ひとの<夢>を養分にして実を結ぶ。そして、この世に不満を抱いていたり、絶望していたりする者を、郷愁を呼び起こす歌で<夢>に誘うのだ…

夏への扉 新訳版/ロバート・A・ハインライン 

タイムトラベルSFの永遠の古典が小尾芙佐の新訳で出版されていたので読んでみた。三回ほど読み返している作品なので内容は覚えているが、福島正実訳がどのようなものであったかは忘れているので、どこが違ったのかはよく分からず、普通に楽しく読んでしまっ…