本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

りかさん/梨木香歩

日本的な情緒にあふれた児童向けファンタジーである。

主人公のようこは一人で祖母の家へバスに乗っていけるようになったくらいだから、小学校の二年か三年くらいだろうか。祖母に「リカちゃん人形が欲しい」とお願いしたのに送られてきたのは「りか」という名の市松人形で、大変に悲しんだようこだが、人形として長く生きてきた「りかさん」は聡明でひとの悲しみを癒す力を持っており、人形と交感する素質のあるようこは、じきにりかさんと仲良しになるのだった。

ようこや友人の家の、人形にまつわる因縁などを解き明かしていくミステリアスなファンタジーでもあり、人形の不気味さをよく描き出していて、時折背筋がぞっとすることもあるくらいだ。子供向けとして書かれているはずなのに、こんなものを読んでおっかながらないのだろうか(笑)。

純真な子供と不思議な存在との出会いという点で、読んでいる途中で「だれも知らない小さな国佐藤さとる」を思い出した。主人公が一瞬だけコロボックルを目撃した後、数十年後の出会いの幸福感とよく似ているように思った。

りかさんと共に人形にまつわる因縁を垣間見たようこだが、そこに描かれる思い出は悲しく痛々しい。このあたりもあまり子供向けに思えないのだが、ノスタルジックな情感と人形の怖さを上手く絡めて、上質なファンタジーになっている。