本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

太陽の塔/森見登美彦

第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。先に読んでしまった「夜は短し歩けよ乙女」同様、自意識過剰で、自我が肥大し、むさ苦しく、暑苦しく、鬱陶しく、女性にもてない昔気質な京大生たちが織りなす馬鹿馬鹿しい青春徘徊小説だ。

「夜は短し…」同様にやや傲慢で大時代な文体で語られる物語は、どうやら内田百けんを模倣したものらしいが、鹿爪らしさからユーモアが浮かび上がってくる。

主人公は、一度「誤って」女性とお付き合いしたことがあり、彼女と別れて後は、天真爛漫で風変わりな女性水尾さんについて研究することをライフワークにしている。完璧な彼女だが、「私」を袖にしたという大きな問題を抱えており、「水尾さんという謎を解明せんとする研究は、ストーカーなどとは一線を画した知的活動」だそうである(笑)。

「私」の友人たちも似たり寄ったりの鬱陶しい連中であり、クリスマスファシズム(幸せなクリスマスのイメージを押しつける世間の動き)を粉砕すべく暮れの京都に「ええじゃないか」をしかける終章が馬鹿馬鹿しくも楽しい。何となく「男おいどん」を思わせるし、「ええじゃないか」を使ったあたり、かんべむさしの影響を感じさせる。

表題の「太陽の塔」とは万博記念のモニュメントだ。主人公が水尾さんをデートに誘ったところ、彼女の方が太陽の塔に入れ込んでしまったということなのだが、その夢に入り込んでしまったというのが唯一のファンタジーらしさであろうか。ともかくけったいで面白悲しい佳作だった。