本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

黄金の王白銀の王/沢村凛

著者の大作「瞳の中の大河」はバーチャルな西洋中世的な世界を舞台にした戦史ファンタジーで、本作も同様の作品だが、舞台は東洋中世的世界である。人名・地名の付け方は、当初中国的ものかと思ったが、むしろ古代日本的なものが感じられ、独特の世界観だ。

巨大な島国である翠(すい)は、偉大な穡(しょく)王の治世後、四代目の双子の王子が後嗣を争い、百数十年、それぞれの血統を継ぐ鳳穐(ほうしゅう)と旺廈(おうか)の一族が覇を競って血みどろの紛争を繰り返している。現在は、数年前に鳳穐が旺廈を放逐して四隣蓋(しりんがい)城を取り、若き有能な頭領ひずち(禾魯)が翠を統べている。

ひずちは旺廈の頭領薫衣(くのえ)を「殺せ。殺したい。殺すべきではない。殺したくない。」という矛盾した思いを抱えたまま幽閉していたが、薫衣を成人させて四隣蓋城に迎える。そして薫衣にとっては屈辱となる、秘めた企図を打ち明けるのだった。薫衣の立場が哀れだが、誇りを持って悠然と己の使命を全うするあたりは「瞳の中の大河」同様だ。

冷徹な王者ひずちと純粋で直情の薫衣を対比させて、緊張感ある疑似戦国時代小説だ。読み応え十分。