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影との戦い ゲド戦記1/アーシュラ・K.ル=グウィン

岩波少年文庫に入ったのを機についにゲド戦記シリーズを読み始めた。多島海アーキペラゴ)地域の山羊飼いの家に生まれたハイタカ少年が大魔法使いになるまでを描いた成長ファンタジーという感じだろうか。

ハイタカは素質を見込まれて大魔法使いに預けられるが、何事も教えて貰えない日々に不満を抱き、更に大いなる教えを求め、魔法学院のあるローク島へ旅立つ。己の素質を過信する高慢なハイタカは、力を使う誘惑に負けて邪悪な存在「影」を呼び出してしまい、自分自身が傷つき更に恩師を死なせてしまうまでの事態に。

肉体的にも精神的にも大きく傷つき、少しずつ再生していったハイタカは、影がハイタカを乗っ取って力を利用することがないよう封じ込めなければならず、ここに苦難の旅の第一幕が開く。

「己を過信した力の悪用」という点では、スター・ウォーズのフォースや十二国記小野不由美)シリーズ、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド/村上春樹」を思い起こさせ、もしやこれらの諸作が影響を受けているのかと思ったりした。

長期間にわたりベストセラーとなっているのは、高慢と絶望の間を揺れ動くハイタカの姿が読者に重なるからだろう。この点に関して翻訳初版の解説に「危機的な現代人の意識に訴える」と書かれてあるが、40年ほど経った現在もこの解説は生きているような気がする。ただ、人が生きている時代はいつでも危機的なのかもしれないとも思う。


余談だが、「崖の上のポニョ」が制作された時、『「動く城のハウル」は子供には難しすぎたかも知れず、あえてシンプルな絵柄にしてみた』という宮崎駿の談話があったように記憶している。もしかして宮崎吾郎監督のゲド戦記は、ジブリ内ではなかったことになっているのか、などと考えたものだが・・・(笑)。