本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

精霊の守り人/上橋菜穂子

大ヒットした児童向けファンタジーシリーズの第一巻であるが、とても子供向けとは思えない、重厚な物語である。

腕が立つ女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを道すがらに助けたことから皇家のゴタゴタに巻き込まれる。二百年前に始まる新ヨゴ皇国の建国神話では、移入した建国の祖が水にまつわる魔物を平らげ、先住民を安堵させて従えたことになっているが、その魔物がチャグムに卵を産みつけたため、王の権威を守るためにチャグムは抹殺されかかっているのである。ニノ妃からチャグムを守るよう頼まれたバルサは、致し方なくチャグムを連れて逃亡、〈狩人〉と呼ばれる王手飼いの暗殺者達に追われることになる。

チャグムに産み付けられた卵の謎と、バルサに導かれた逃避行が物語の主軸だが、星読ノ宮と呼ばれる権力機関が重要なポイントだ。天の動きを読んで人々を導く星読博士の頂点に立つのが聖導師だが、神聖なイメージとは異なり、王の後ろで政を行い、汚れ仕事も辞さない謀略集団なのだ。

新ヨゴ皇国の先住民族ヤクーの呪術師であるトロガイは七十を過ぎているが未だに矍鑠としており、建国神話に語られない真実を若き弟子タンダ(バルサの相棒)と共に暴き出して行く。

チャグムは八ヶ月ほどバルサたちと過ごし、心身ともに逞しくなっていくが、この二人の関係が自分にとっては本書で一番の読みどころだった。バルサには悲しい過去があり、それをチャグムに投影しているのである。そして、大人が無力な子供を保護し鍛える部分には「初秋/ロバート・B. パーカー」や映画「グロリア」と同じものが見て取れた。特にタフな中年女性(バルサは三十歳だが)の逃避行と言う点でとても「グロリア」と重なる。こういう物語、好きだなぁ。

バルサ自身、大人とは言っても子供の頃に負った傷を忘れていないし、賢者となるほど老成してもおらず、彼女がこれから精神的にどう変化して行くかも興味のあるところだ。