本・花・鳥(ほん・か・どり)

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獄窓記/山本譲司

獄窓記 (新潮文庫)

秘書給与流用詐欺で逮捕された元国会議員が、己の犯罪の来し方と、障害者の世話係を命じられた獄中の日々を綴ったノンフィクション。障害者の収監問題にも一石を投じて話題になった本だ。

妙に漢語を多用した文章は自己陶酔的だし、一方的な記述だから偏りがあるような気もするが、学歴も経歴もある受刑者の生活はそれだけで興味深い。妻と生まれたばかりの子供を残しての収監だから、哀れさはこの上ない。

多少の後ろめたさを覚えつつも事務所経費のために秘書給与を流用し、それがマスコミに明らかになったのは、この一件を持ちかけてきた人間(私設秘書)のたれ込みによるものだったらしい。長年の慣習だからと甘く考えていたようだが、昨今の経済事件の摘発などを見ると、ルール破りは通用しないご時世になってきているような気がする。

逮捕前に議員辞職しているし、本人も弁護士も執行猶予のつもりでいたようだが、意外にも1年半の懲役刑。控訴審で戦うよりも、早いうちに罪を償っておこうと考えた著者には、違う世界を覗いていみるのも一興という好奇心もあったようだが、犯罪者へのペナルティは出所後にもついて回ると言うことで、決して甘いものではなかったようだ。

反近代的で人権無視の獄中生活は、読むだに気分が重苦しくなる。そもそも監獄法という明治に制定された法律が囚人生活の根拠になっていて、時代錯誤も甚だしいらしいが、人権を剥奪されるからこその刑罰でもあるのだろう。

福祉を政治活動のライフワークにしていた著者は、囚人達の相談にも乗ったりしていて、やがて寮内工場と呼ばれる、障害者を集めた工場の指導補助に配属される。精神障害、知的障害、身体障害、認知症などがあり、普通の懲役刑を受けられない囚人たちの世話係をやらされるのである。汚物の処理や食事の世話や清掃まで、ホームヘルパーのような生活だったらしい。

指導補助仲間に、有名な患者虐待事件で逮捕された人間がいたようで、障害者への差別的言辞を平気で口にしながら汚物の処理など率先して体を動かしていたりするらしいから、人間はやはり複雑である。

この経験を生かし、昨今は障害者福祉の世界に生きているらしいから、人間は幾つになってもやり直せるものだと思う。同じ罪で摘発されながら、著者を引き合いに出して「カツラを買うなどの私的流用はしていない。」と事実誤認の弁解をしていた辻元清美に対し法的措置も辞さないと憤り、人権意識の薄さを露呈したと激しく糾弾しているが、執行猶予でいけしゃあしゃあと政治家に返り咲いているのを見ると、やはり人間の底が浅いなと思う。