本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

日本の路地を旅する/上原善弘

「路地」とは、作家の故中上健次が自らの出自である和歌山県新宮市の被差別地域を名付けたもので、中上ファンにとっての聖地のようになっているらしい。おそくら過酷な歴史を背負ってきてはいるのだろうが、なんとはなしにロマンティズムの響きを感じさせたりして、その辺も中上ファンを魅了するのだろうか。自分は中上作品を一冊も読んでいないのでよくわからないが・・・。

著者自身も大阪の被差別地域の出身だが(食肉業者として一代で成り上がった父親もなかなか凄い)、結婚などで各地の被差別地域と結ばれてきたネットワークを見てきており、自らの好奇心の赴くままに、全国の被差別地域をつぶさに歩いて回った記録である。

解放運動に熱心な地域、寝た子を起こすな式に目立つ活動をしない地域、屠畜、食肉産業や皮革産業の盛衰、芸能など、様々な事柄が全国縦断的に綴られており、周縁好きの歴史ミーハーとしては興味津々のものがある(興味本位で採り上げていい話題かどうか迷うが、尼子の忍びとして活動し、後に毛利家に隷属することになった路地の話題や、日本の被差別の源流はカースト制度にあるなどは、伝奇好きとしてはたまらない)。五木寛之沖浦和光が周縁に惹かれているのも同様なロマンを感じているのだろうなぁと思うのだがが・・・。

兄との複雑なしがらみ、センチメンタルな自省などが縷々綴られて、ナイーブな青年の心の旅とも言えるようなルポである。