幕末の大坂、一枚摺(瓦版)屋の跡取り文太郎は、放蕩が祟って勘当されているが、文才は父親譲りで、戯作で身を立てている。目撃した米屋の打ち毀しを記事にし、それを父親が一枚摺にしたところ、ご政道批判と言うことで奉行所に引っ張られ、責め殺されてしまった。反骨精神も父親譲りの文太郎は、父の敵討ちとばかりに現体制への反抗心を煮えたぎらせ、ゲリラ的な一枚摺屋へと歩み出すのだった。
作者は団塊の尻尾くらいの世代、教員でもあったようで、いかにも反体制的なメッセージに満ちている。印刷物が運動のメディアであるところも、学生運動のビラ撒きを思い起こさせる。
文太郎の復讐劇と並行して討幕運動が語られているが、「大政奉還しても実験を手放さないつもりの徳川家」などは、口先だけの構造改革を叫ぶ政治家を重ね合わせているのだろう。どうもこの世代が時代小説を書くと、江戸幕藩体制の確立を政治の季節の終焉に重ねたり、ということがある。面白くはあっても、このあたりは鬱陶しい。
物語はややご都合主義に進んでいった感があるが、最後に少しだけ悲しいエピソードがあり、この悲しみを「ええじゃないか」に昇華させているエンディングが良かった。