本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

エンデュアランス号漂流/アルフレッド・ランシング 

第一次世界大戦の始まる頃、南極大陸横断を試みたイギリスの探検隊の航海船が流氷帯に閉じこめられ、漂流の末に氷に圧迫されて沈没、総勢28名の探検隊がいかに苦難の末に生還したかを描くドキュメンタリー。

リーダーのシャクルトンは、情熱家、夢想家、やや無謀な冒険家だが、とにかく冷徹なリーダーシップで、一行を無事に生還させた。「危険で生還の可能性は低い」という隊員募集の広告に応募したのが5000人だと言うから、恐らく選りすぐりのタフな隊員でもあったのだろう。隊員たちの日記の抜粋も見られ、それぞれの個性も楽しく描かれている。

生活物資はわりあい豊富だったようで、何ヶ月かは余裕をもって幽閉生活をしていた一行だが、船の沈没によって氷原に放り出される。少しでも島のある方へ近づこうと移動を始めるが、ボートを引いての歩行は困難で、氷原でのキャンプ生活を余儀なくされることに。アザラシやペンギンを狩ることで飢えを凌ぎ、しばらくの滞留生活は奇妙な安定を見せていたが、ついに氷盤が緩んで割れ始め、陸地を目指して三隻のボートで流氷海に乗り出すのである。

常に氷と海水にさらされているようなサバイバルである。22フィートのボートで、1400kmの荒海を航海するなど、成功することがおぼつかないような幾多の危機を凌ぐ場面が実にスリリング。下手な冒険小説などよりもよほど感動的なノンフィクションだった。

エンデュアランス号関係の著作は、シャクルトン自身の日記や、子供向けのものなど、他にも出版されているようで、本国イギリスではそれくらい有名な英雄なのだそうだ。この本の原書はカメラマンの星野道夫の愛読書で、彼が知人に勧めたことで日本での出版に至った由。