本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

大江戸美味草紙(むまそうし)/杉浦日向子 

江戸から来た人((c)和芥子さん)が綴った江戸グルメの数々。季節ごとの食べ物川柳を引用しながら、食べ物を粗末にできなかった時代の食の喜びを情緒たっぷりに伝える楽しい本だ。

現代とは違う価値観なので、目から鱗の知識の数々が面白い。



数の子やサンマがマグロやスッポンが下賤な食べ物だった。

三が日に餅を食べるのは、家康が質実剛健を肝に銘じさせるためで、町人まで右へならえして雑煮を食べていた。三が日が開けて白いご飯を食べるのが待ち遠しかった。

ふぐを食べるのは独り者のロシアンルーレットだった(ふぐは毒が当たるから鉄砲というのは知っていたが、時折当たることがあるから、という理由らしい。それほど鉄砲の命中率が低いと言うことだ)。

初鰹は三両した。

天麩羅とは魚介の揚げ物のことで(野菜天という使い方は当然誤用である)、この字を当てたのは山東京伝だった。

蕎麦は主食ではなく趣味の食べ物で、だからこそ妙な通ができたらしい(通ぶりに顔をしかめる「そばの花江戸のやつらがなに知って」という一茶の句があるらしい)。

甘いものが貴重だったので、客に出す羊羹は見せるだけのもので食べてはいけなかった(砂糖を大量に使っているので日持ちがし、かさかさになってから主人が食べたそうだ)

などなど・・・。

ところどころ挿絵として日向子女史自身の漫画も挟まるが、細密な描き方は「名所図会」などの江戸の出版物を意識しているのか。