本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

わんぱく天国/佐藤さとる

小五の頃在学していた長野市の小学校の図書館でよく借りた愛読書だった。東京に越してから本屋で見つけたと思い、買ってきたのが佐藤春夫の「わんぱく時代」で、間違えていてがっかりしたが、佐藤春夫のわんぱくも面白い(笑)。

本書は著者少年時代の遊びや交友を描いた自伝小説で、戦前の少年たちが活写されている。著者が過ごした横須賀の自然豊かな傾斜地は細道が入り組んでいて、子供が遊び回るには絶好の地であったろう。そして、柿ノ谷(かきのやと)と西吉倉の少年たちが、二人のがき大将をリーダーに、多少の対抗心を覗かせながら、競ったり協力したりで、そうか、こういう縄張り意識のようなものがあったんだなぁと懐かしくなる。老母を担当してくれていた以前のケアマネさんは隣の隣の町くらいのご出身で、小学生の頃、校区が違うこちらまで遠征してくるのは冒険だったと言っていたし。

著者の分身と思しき加藤馨は、はしっこくて小生意気で負けず嫌いだが、憎めない少年である。駄菓子屋で売っている一銭飛行機から子供たちが飛ぶ事への情熱を持ち始め、ついに人を載せられる大きさの飛行機を作り上げ、カオルをパイロットに飛び立つシーンは何とも気持ちよい浮遊感があって、何ならジブリで映像化して欲しいほどのカタルシスがあった。二人のがき大将を言いくるめて自分がちゃっかりパイロットにおさまるカオルの賢いことよ(笑)。

子供たちが縦割で遊ぶグループも懐かしい。最年長が威張っているなどヒエラルキーと言えばヒエラルキーだが、がき大将は幼い者たちへの思いやりを持たなければならなかっただろうし、今時のスクールカーストよりは良かったんじゃないだろうか。

余談だが。イモムシからテグスを取り出すシーンというのを以前に読んだ本で覚えていたものの、どの本に出ていたことはまったく失念していたが、本書であった。

2016年出版の本書後書きに「この作品には何度か手を入れてきており、現在のところは決定版だが、将来的には分からない」みたいなことが書かれていたが、著者が物故したので正に決定版になってしまったなぁ。