本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

サクリファイス/近藤史恵

自転車ロードレースチーム内の事故の真相を追う青春ミステリーである。

主人公の白石誓(ちか)は、かつては将来を嘱望された陸上選手だったが、結果ばかりを追いかける周囲の期待が嫌になり、エースを優勝させるための踏み台の立場もある自転車競技に魅了されて転向する。

自転車でも頭角を現した誓は、日本でも有数のチームであるチーム・オッジに所属し、踏み台としてのアシストの立場を楽しんでいる。チームのエースの石尾にまつわる暗い噂、エース候補である伊庭の狷介さ傲慢さなども描かれ、スリリングな冒頭だ。駆け引きやチームワークなしには成立しない自転車競技の面白さもよく描かれている。

かつてのライバル候補を事故を装って潰したとの噂のある石尾は、アシストとしての誓を使い捨てにしているように見えるが、自分の勝利が、踏み台にしてきたアシストたちの勝利でもあることをよく認識しており、その紐帯が苦く美しい。このあたり、登山隊のサポートチームとアタックチームに似ているように思える。

チーム・オッジが参加したヨーロッパのレースで大事故が起こり、その真相を誓が暴いていくあたりでミステリーになるが、サスペンスたっぷりでミステリーとして非常に面白いし、石尾のプライドも美しい。並行してかつての誓の恋人への思いも描かれているが、これはちょっと浅かったような気がする。

まぁしかし、自転車競技と謎解きのの両方が楽しめる、秀逸なミステリーだ。