本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

タルト・タタンの夢/近藤史恵

文庫化にて再掲。とても美味しいミステリー連作である。

語り手がホール係として勤めるビストロ・ラ・バルは商店街の一角にある小さな店だが、フランスの家庭的な惣菜料理が人気で、固定客も付いている。そんな店で起こる「なぜ常連の西田さんは食欲不振になったのか」「偏食の粕屋さんに不味い料理を出す奥さん」「人気エッセイストがかつてパリで同棲していた恋人はなぜ誕生日に最低の料理を出したのか」「人気ショコラティエの詰め合わせはなぜ数が中途半端なのか」と言った小さな謎を、美味しそうな料理とともに偏屈な三船シェフが解き明かして行く美食謎解き小説である。

小さな謎には小さな悪意もほの見えて、ただ食べ心地のいいお話で終わらせないところがこの作者の妙味だ。また、よくも見事な謎解きを仕込めるものだと感心するし、サクリファイス自転車競技もそうだったが、舞台設定とミステリー的な興味を無理なく融合させるのも大した手腕だ。

食べ物にまつわる人生のトラブルを料理がらみで解決するという部分に既視感があり、なんだったっけと考え、「美味しんぼ」とカブるのかも、と思った。本当は優しいのにぶっきらぼうで偏屈なところも山岡と似ているような気がする(笑)。


続編「ヴァン・ショーをあなたに」も楽しい。