本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

私の台所/沢村貞子

名女優、沢村貞子が料理を始め家事の細々、着物、人付き合い、仕事などについて語る随筆の名作である。ずいぶん昔に母の誕生日にプレゼントしたことがあったなぁとたまに思い出していたが、職場の隣にある公共施設の図書コーナーに40年前に出版された本がそのままひっそりとあり、これ幸いと借りてみたものである。著者は随筆家として有名であった由で、実に達意の文章。


仕事を持ちながら料理や家事に手を抜かず、テキパキと動き回る様はいかにも明治女の気骨という感じがする。やや皮肉げなものの見方も面白い。ただ、やはりそこには古い価値観も見られ、今の世で通用するかなぁと思わぬでもない。


それにしても料理に関する手際の素晴らしいことよ。決して手を抜かず、食を大切にしていることが伝わってくる。こちとら毎度手抜きの献立だから何となく耳が痛い(笑)。


著者は不倫の果てに結婚した夫があり、生活の面倒も見てきたような感がある(道楽のような編集業をしていた高等遊民の感)。慰謝料を払うために妊娠していたのに子供を諦めた、なんて話もある。そんな夫を大事にしている風も描かれているから夫婦の機微は分からんなぁと思うのである。


閑話休題、出版から40年ぶりに読んでみて、変わらぬ面白さの名随筆であった。