本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ハングルの愉快な迷宮/戸田郁子

韓国人写真家に嫁いでソウルに住み、エッセイストとして活躍する著者が(韓国で出版した本がベストセラーになっているとか)、ソウルでの生活や文化や風俗や韓国語などについてユーモラスに語る好随筆である。

単行本時の書名は「手の大きいお嫁さん 私の韓国語小辞典」で、手の大きいお嫁さんとは客人などに大盤振る舞いをする嫁という意味合いの韓国語らしい。「気前が良い」と「無駄遣い」が背中合わせになっているような言葉らしいが、このように、韓国語における様々な言い回しを面白おかしく綴っている。

女性がパワフルに見える韓国社会だが、そこは男尊女卑の儒教社会で、夫の父親を立てる姑の姿なども活写している。婚家にとっては桁外れな嫁なのかもしれないが、好意的に受け入れられているようで、読む方としても安心だ(笑)。

食事に関する描写が詳細で、食に対するこだわりは日本人を遙かにまさっているらしい。美味しそうな描写が続くので、是非、韓国料理に関してだけの随筆も読みたいところだ。

二十数年、韓国で暮らしていても、完璧に韓国語を操ることは出来ないそうで、生まれて数年の息子に発音を直されるという挿話が笑える。日本語では「ん」の発音に関して意識しないが、韓国語には三種類あり、日本人が無意識に使っている「ん」」も韓国人は聞き取るらしい。で、息子の名前を間違えて発音しているという。

カルチャーギャップを描いたエッセイとして大変に面白く、是非、他の著作も読んでみたくなった。
 
因みに韓国語の「ん」であるが、「パンが」「パンだ」「パンも」と発音した時の「ン」がその三種類で、唇や舌の位置がそれぞれ違うことが分かる。ある韓国語学習書に書かれていた方法である。