本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

星落ちて、なお/澤田瞳子

奇想の浮世絵師、河鍋暁斎の娘とよの生涯を描いた時代小説。直木賞受賞作。


幼い頃から父に手ほどきを受けていたとよはそれなりの画才を発揮しているが、自分では父や異母兄に到底及ばないという劣等感を持ち続けている。


父の死後、不仲の兄と競うように画家人生を送るとよ。江戸から明治になると、西洋画の技法を取り入れた日本画がもてはやされるようになり、暁斎やその子供らの絵は時代遅れとなっていくが、とよは時代に抗うように狩野派を名乗り続ける。


父や兄を越えられない葛藤を抱えてなお描き続けるとよは、画鬼と呼ばれた父の執念を受け継いでいるのかもしれない。家族への愛憎が丹念に描かれているが、最後にちょっとした救いがある。


ウィキペディアを見る限り、とよの業績はそれなりに評価されている感じだが、事実は事実、創作は創作ということかもしれない。読み応えのある芸術小説だった。