本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

恋歌/朝井まかて

三宅雪嶺夫人花圃が、歌の師である中島歌子の回想記を読むという体の時代小説で、直木賞受賞作。

中島歌子は水戸家御用達の宿屋の娘で、明朗闊達ながらやや軽躁の気味もある町娘である、桜田門外の変で有名な天狗党の一員と恋に落ち、反対する母親を説得して水戸へ嫁いでいくが、夫は家を留守にしがちだし、嫌みな小姑にいじめられ、この先、幸せが待っているのだろうかと読む方も暗澹としてくる。

更に、藩の内紛で天狗党の家族が拘引され、次々に処刑されるという酸鼻を極めるような境遇に落ちながら、どこまでも夫を思い、明治の世まで生きながらえ、歌人として名を成すのである。彼女の人生すべてが夫への恋歌だったのだなぁと思わせる。ミステリアスなおまけもついて読み応え十分だが、読むのが重たい作品でもあった。