本・花・鳥(ほん・か・どり)

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幽霊の涙 お鳥見女房/諸田玲子

お鳥見女房とはバードウォッチング趣味を持つ人妻、という訳ではなく、御鳥見役という幕府の下級役人の婿取り主婦を主人公とした連作時代小説である。

御鳥見役は鷹狩りの下見や鷹場の管理するような役目だが、鳥が逃げたという口実で大名屋敷にも入り込める権限を持つため、隠密活動にも従事する。危険な役目でもあり、本作の主人公の矢島珠代の祖父は任務の途中で命を落とし、父も夫も行方不明となったような過酷な任務だが、気丈で思いやりがあって賢明な珠代は、何度もの試練を凌いできている。

このシリーズは10年以上前から続いていて、シリーズ物は途中で手に取らなくなることが多く、本作も久しぶりに読んでみたものだが、やはり期待違わず面白かった。四季の移ろいを背景に、江戸情緒がたっぷりと盛り込まれ、懸命に生きる人たちをしみじみと活写している。

面倒見の良い珠代は今まで何人かの居候を受け入れてきたが、かつての居候一家、石塚家の子供たちはもう成長して嫁入り話があったりだ。現在は珠代の従姉になる登美が居座っているが、口やかましく出しゃばり婆さんという役柄ながらどこか愛嬌があり、人の良さも見えて上手いなぁと思う。かなり切ない場面もあり、しみじみ読ませる時代小説シリーズである。