本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

狐狸の恋/諸田玲子 

お鳥見役という、隠密密偵も兼ねるような下級役人の矢島家の跡取り娘であり、夫の留守をしっかりと守ってきた珠代を主人公に、家庭内外の様々なしがらみを描くお鳥見女房シリーズの4作目。密偵の任務で心身ボロボロになって帰ってきた夫伴之助も落ち着きを取り戻し、矢島家ではやや平穏な風が見えてきている。

矢島家の長男で、お鳥見役見習いに上がった久太郎は、鷹匠の横暴を査察する役目を仰せつかり、無体な鷹匠にいじめられる村人を助けてみせる。次男の久之助に比べて温厚だと思われていた久太郎だが、熱い正義感が心地よく描かれている一編。

因みに以前に縁談のあった鷹姫(水野越前守忠邦の鷹匠の娘)は、権力にすり寄るのが嫌さに拒絶したが、実は憎からず思っており、鷹姫の父親を抱える水野忠邦が失脚したために却って嫁に迎えたいという気持ちが強くなっている。七面倒くさい事情のある縁談だが・・・。

久之助は、祖父が密偵任務に出た際に因縁のあった娘と相思の仲になっており、これもやや多難。珠世にとっては子供の成長が嬉しかったり寂しかったりする昨今である。

かつては矢島家の居候だった飯塚家の次男・源次郎の焦りを描いた一編や、愛想の良さとは裏腹の腹黒さを描いた一編など、今回も情緒ある江戸の四季を背景にしみじみと読ませる連作だった。