本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

凶刃/藤沢周平

用心棒日月抄シリーズ第4弾は十四年の歳月を経て後の物語である。

幕府隠密とのいざこざから将軍に嫌みを言われた藩主は、藩内隠密組織嗅足組を解散するよう指示、そして江戸詰になる青江又八郎に、江戸嗅足組への指令が託される。

「用心棒日月抄」「刺客」「孤剣」で活躍したかつての青年剣士もすっかり中年になって腹が出、剣の方もおろそかになっているが、嗅足二の組を操る首領が江戸嗅足組の抹殺を図り、否応なく再び闘争の場に引き出されることになる。そして、懐かしい人々との再会が、滑稽に、或いは悲しく描かれるのであった。

何と言っても、江戸嗅足組頭領の佐知との再会が情緒たっぷりに描かれている。道ならぬ仲が復活した二人だが、いずれは別れなければならない運命であり、後ろめたさと悲しさが相まってたっぷりの情感をはらむ。

そしてかつての相棒だった細谷源太夫老いぼれとなっている。本来、青江より10才ほど上だったのだろう。かつては二人で豪快に、恐い物知らずな剣を振るっていたのだから14年の歳月は恐い。ただ、勤め人としての己を自嘲し、ほんの少しだけ細谷の勝手気ままな生活に羨望を覚える青江に、僅かながら細谷への救済がある。

事件の片が付き、故郷へ戻る青江にとって、江戸に一人残らなければならない佐知が不憫でならない。この場面が非常に切ないのだが・・・。後は本作の末尾を読まれたい(←北上次郎の真似(笑))。

明朗闊達でなおかつ情緒たっぷりの名作シリーズは、著者が故人となったこともあってこれにて幕であるが、もっともっと読みたいシリーズだった。