心を閉ざした学生が水墨画を習うことによって再生するさまを描いた青春小説「線は、僕を描く」の続編。
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水墨画の巨匠、篠田湖山の展示会イベントの搬入アルバイトをして湖山と知り合い、弟子となった青山霜介は、高校生のときに両親を事故で亡くし、心の中の部屋に閉じこもっていたが、湖山と水墨画に出会ったことによって再生していく。
そして三年が経ち、大きなイベントでの大役を任された霜介は失敗してしまい、スランプに陥ることに・・・。そんな時、兄弟子の西濱湖峰のピンチヒッターとして、かつて母親が教師をしていた小学校で水墨画を教えることになった霜介は、子供たちの純粋さに触れてスランプから脱して行くのであった、というような単純な話ではなく、ずっと悩みっぱなしだ。こけつまろびつしながら、一時は水墨画をやめようとも思い悩むのだが・・・。
純粋真面目ゆえに悩む霜介の他、暖かく弟子を見守る飄々とした湖山先生、湖山の孫で新鋭水墨画家として活躍する勝ち気な千瑛、坊主頭にサングラスをかけ、霜介の親友を自認する変わり者の古前くんなど、脇の人たちのキャラもよく立っている。
本作の魅力はストーリーにもキャラクターにもあるが、水墨画を描くときのライブ感も大きなポイントだ。つい文章にのめり込んでしまうようなグルーブがある。水墨画家でもある著者の真骨頂であろう。一枚の絵を数人で描くこともあるようで、正にライブセッション。
人と水墨画の魅力を描いた端正な青春小説である。