本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

海の底/有川浩

横須賀の基地に巨大甲殻類が大挙襲来、人を襲い始める。米海軍基地の桜祭りに訪れていた子供らは逃げ惑った末に海軍基地に停泊中の海自潜水艦きりしおに逃げ込み、海中へ。潜水艦の乗組員は自衛隊内の問題児、夏木と冬原の二人。イケメンで人当りよく温厚そうだが、実は結構冷徹な冬原と、無骨い夏木の二人は、平時には問題児だが、有事には役に立つ存在とされていて、それがいかんなく発揮される。


一方、地上では機動隊による防御の対策が執られていたが、モンスターに対しては無力であり、いずれは自衛隊につなげればならないとしながら、様々な制約のある中での二人の警察官の奮闘が描かれる。神奈川県警警備課長補佐の明石は当意即妙に対応できる有能な警官だが、上からの覚えはめでたくない。一方、対策本部の指揮を執る警視庁参事官も傲慢で型破りな切れ者で、この二人がタッグを組んで事態に立ち向かうのだった。


人間関係が濃密に描かれていて実に読ませる。潜水艦に避難した子供の中に、団地内のボスキャラママにスポイルされた悪辣な中学生がいて、事あるごとに反抗するが、なんだか十五少年漂流記のドニファンを思わせるなぁと思っていたら、どうやら十五少年漂流記をやりたかったらしいことが文庫の解説に書かれていた。


怪物パニック小説であり、重厚な軍事小説であり、サバイバル物語でもあり、実に読ませる作品だった。超弩級のエンターテインメント。それにしても、阪急電車旅猫レポートの作者がこんなハードな小説も書くんだなぁと感心。

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