本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ノースライト/横山秀夫

主人公の青瀬稔は建築家で、バブルに踊ったあと一時は凋落し、離婚も経験しているが、友人の経営する建築事務所に誘われてそれなりに生活を立て直している。


注文建築でデザインしたY邸が評価を受け、建築雑誌にも紹介されるほどの傑作になっているが、信濃追分に建てられたY邸には人の住んだ形跡がなく、注文主である吉野一家は行方不明で、その謎が本作の大きな筋立てになるのだった。


建築というものをモチーフに丹念に描き込まれており、建築はこうもひとを動かすものなのかという思いがする。


吉野の友人で雇用主でもある岡嶋に関わる物語も本作の重要なサイドストーリーだ。傲慢な俗物ぶりも見せる岡嶋は、無名のまま亡くなり死後に有名になった画家の公立展示館の指名業者となるべく無理な営業をしているが、後にそれが彼の足を引っ張ることに。しかし、俗物の中にある純な思いが美しい。岡嶋のあとを受けて頑張る残された事務所の面々が共感を呼ぶ。


すべての伏線が回収され、謎が明らかになると、うーん、そういう話だったのかと感心させる出来映え。読後感の良い感動作である。