本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

スクラップ・アンド・ビルド/羽田圭介

芥川賞の又吉じゃない方」というかわいそうな言い方をされる受賞作(笑)。

主人公は慢性腰痛で仕事をやめ、アルバイトで食いつなぐ27歳の青年である。同居の祖父に簡単な介護をしているが、身動きが緩慢になり「早く死んだ方がいい」と常にこぼしている祖父にいらついており、いっそ祖父の望みを叶えた方が本人のためではないかと、老人を弱らせる親切な介護を試みるのである。そして、自分はトレーニングの歓びに目覚め、筋肉を獲得することに恍惚感を得ていく。

「走ル」を読んだ時にも思ったことだが、なんとも独善的で狭量で冷めていて、感情移入しがたい主人公である。まぁだからこその純文学であろうけれど。エンタメ小説なら介護者と被介護者のハートウォーミング交流が描かれたり、冷たい主人公の氷が徐々に溶けていく、と言ったような筋立てになるのではなかろうか。

弱っていくばっかりに見える祖父も一筋縄ではいかず、主人公にとって幾つかの謎が提示されるが、特にその謎が解明されるわけでもなく、何かモヤモヤしたままエンディングとなる。この気持ち悪さも含めて優秀作なのだろう。共感は出来ないが面白かった(笑)。