本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

神戸・続神戸/西東三鬼

前衛俳句の旗手、西東三鬼が、新興俳句運動が特高によって弾圧された「京大俳句事件」で一時東京を逃れ、神戸で暮らした顛末を描いた私小説と言うべき物か。


著者はトーアロードに面した安ホテルに逗留し続けるが、住人にはエジプト人白系ロシア人、中国人、朝鮮人など国際色豊か。日本人娼婦も多数暮らしていて、著者はそのうちの一人と同棲することに。今なら風俗嬢がビジネスホテルで生活しているようなものだろうか。


戦中ながら退廃的で無頼で自由な日々をユーモラスに語っており、さすが西東三鬼という感じ。国際都市神戸であるせいか、住民たちの認識は戦中の当時でも「自由を我等に!」であった由。コスモポリタンの面目躍如。


「続神戸」は戦後の日々を綴ったもので、英語に堪能なため、進駐軍と日本側業者の間に立って折衝役を務めていたことなどが語られているが、勝者の愚劣さが露呈される日常を淡々と描いている。



西東三鬼の代表句(ウィキペディアより)。「水枕」「おそるべき」は俳句をやらない自分でも知っているような有名句だ。
水枕ガバリと寒い海がある (『旗』)
算術の少年しのび泣けり夏 (『旗』)
白馬を少女?れて下りにけむ(『旗』)
中年や遠くみのれる夜の桃(『夜の桃』)
おそるべき君等の乳房夏来(きた)る(『夜の桃』)
露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す(『夜の桃』)
広島や卵食ふ時口ひらく(句集未収録、「俳句人」1947年)
頭悪き日やげんげ田に牛暴れ(『今日』)

神戸・続神戸 (新潮文庫)

神戸・続神戸 (新潮文庫)

  • 作者:西東 三鬼
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/06/26
  • メディア: 文庫