本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

名探偵カッレとスパイ団/アストリッド・リンドグレーン 

カッレくんシリーズ第三弾。

またも夏休みの輝かしい日々を過ごすことになったカッレ、アンデス、エーヴァ・ロッタの三人が、今度は謀略騒ぎに巻き込まれた幼児を助けるために奮闘する。

バラ戦争のさなか、子供好きのエーヴァ・ロッタは、郊外の一軒家で見かけた可愛らしい五歳児ラスムスに話しかけ、知り合いになるが、ラスムスの父親は科学者で、銃弾を通さない金属を発明したということで親子共々誘拐されてしまう。ラスムスを放っておけないエーヴァ・ロッタは共に自ら誘拐され、カッレとアンデスがこれを追跡していくことになる。例によってカッレの機知が冴えるが、十五才なりの限界もあり、幾度も危機をくぐり抜ける羽目になって波乱万丈の冒険が展開されていく。

なんと言ってもラスムスが可愛らしい。幼児なりの我が儘さやかんしゃくも持っているが、愛らしい言動でひとを魅了する。誘拐団の一人ニッケは愚かさから犯罪一味に加わってしまったが、根は善良であり、子供を虐げることに耐えられなくなってくる。ラスムスがニッケをメロメロにしてしまうシーンのなんとほほえましいことよ。

幽閉されたエーヴァ・ロッタに「人を閉じ込めて自由を奪うことは許されない」と独白させているのは作者が児童文学に込めたメッセージなのだろう。スウェーデンが舞台だし、いかにも冷戦時代の物語という感じがする。少年が主人公であることを除けば、スパイ活劇小説としても一級だ。