本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

声をあげます/チョン・セラン

「保健室のアン・ウニョン先生」「屋上で会いましょう」などファンタジー作品が多い著者だが、本作は真っ向勝負のSF短編集。指だけがタイムスリップしてしまったり、巨大ミミズが宇宙船でやってきて現代文明を壊滅させるとか、ぶっ飛んだ設定で読ませるが、出色だったのは「小さな空色の錠剤」と表題作。
suijun-hibisukusu.hatenablog.com
suijun-hibisukusu.hatenablog.com


「小さな空色の錠剤」3時間だけめざましい記憶力を発揮させる画期的な認知症治療薬が発明され、当初は本来の目的で利用されていたが、悪用する輩が現れ、その様々な影響がこれでもかというくらいに語られていて、何ともアイディア過多な作品だった。これぞSFという感じだ。


「声をあげます」実直な高校教師スンギョンは当局に麻酔薬で拉致され、収容所で目覚める。実はスンギョンは暴力的な傾向のある人間を凶暴化させる声の持ち主で、教え子から16人の殺人者が出ていたのだ。収容所所長はスンギョンに声帯除去手術を受けるか(自由の身となり、その後の生活は保証される)、一生収容されまま暮らすか選択を強いる。とりあえず収容されることを選んだスンギョンはかなり優雅な囚人生活を送ることに。他に収容されていたのは落ちた髪の毛がひとの心理に影響を与える人間とか、他人にありとあらゆる感染症をうつしてしまうスーパー保菌者とか、人外の生物で屍食者の少女とか、なかなかに多彩なメンバーで、楽しく交流したりしていたが、新たな収容者がやってきて大きな出来事が・・・。


不条理とユーモアが持ち味の著者らしく、ユーモラスで不気味で楽しくて奇想天外なお話がいっぱいという感じだった。