いわゆる食味随筆だが、嫌いなものなどネガティブな食べ物についても触れられていて、なかなかに趣深い。
著者が嫌いなのは牛乳で、想像しただけで戻してしまう話とか、歯茎を切開し骨を削って親知らずを抜く手術を経験した後の、口中にあふれる血液の味とか(生肉好きの著者にとって、血液の味が異様に感じられたのは意外だったとか)、結構エグい描写があるが、それだけに興味深く読める。
大人は子供の食に対して嘘をつくし、大人になったら不味いものも美味しいと言わねばならないこともあるが、気遣いなく不味いものを不味いと言う海原雄山を尊敬しているというくだりは笑ってしまった。
異様なほどの甘味好きには胸が焼けそうになるし、短い文章で食に対する様々な感情を惹起できるのも作家の手腕であろう。一風変わったグルメエッセイであった(笑)。