本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない/伊集院静

女優の妻を亡くし、放埒に生きていた頃からの知人らを綴った私小説

スポーツ紙の競輪担当記者、芸能事務所関係者、フリーの編集者はいずれも堅気な職業ではなく、いかがわしい世界で蠢いているが、だからこそ著者と通ずるものがある。決してベタベタした友情ではなく、時には反感があったりもするが、結局は親しみの情であろう。まともに生きられない男たちが切なく描かれている。

まっとうに生きようとすればするほど、社会の枠から外される人々がいる。なぜかわからないが、私は幼い頃からそういう人たちにおそれを抱きながらも目を離すことができなかった。その人たちに執着する自分に気付いた時、私は彼等が好きなのだとわかった。いや好きという表現では足らない、いとおしい、ずっと心の底で思っているのだ。

社会から疎外された時に彼等が一瞬見せる、社会が世間が何なのだと全世界を一人で受けて立つような強靱さと、その後にやってくる沈黙に似た哀切に、私はまっとうな人間の姿を見てしまう。

著者自身も似たような人ではないかと思うが、このあたりこそ、無頼な人生の真骨頂であろう。無頼と抒情がない交ぜになった著者の著作はだから魅力的なのだ。それにしても著者の狷介なことよ。無愛想で傲慢で自分勝手で、それでも友情を持つ人たちがいたのだから魅力があるのだろうな。