本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

青空の卵/坂木司

ひきこもり気味のプログラマが、語り手の友人が持ち込む「男を狙う連続通り魔」「盲人青年を尾行する男女の双子」「歌舞伎役者への風変わりなプレゼント」「町で保護したまりお少年の正体とは」など、さほど深刻ではない謎を鮮やかに解いてみせる連作ミステリーだが、本書の主眼はそんなところではなく、いびつで純粋で儚い人間関係にある。

語り手坂木司は平凡で善良な青年故に「異能」や「奇人」に惹かれる質であり、母親に捨てられたことと、母親への憎しみを吹き込む祖母に育てられことで、対人関係の苦手な鳥井真一(横柄で我が儘で狷介だが本来的にはナイーブ)に大いに魅了され、いじめられて仲間はずれになっているところに申し出て友人となる(友人の弱みにつけ込んだように思えることで良心の呵責を感じてもいる)。

坂木は、引きこもり気味の友人のために比較的自由な勤めが出来る外資系保険会社に就職しており、このあたりもかなり異常だ。そして、この男はやたらによく泣く。事件の状況の悲惨さに涙し、人の汚さに傷ついて涙するのだが、坂木がネガティブな感情に支配されると、坂木を世間との唯一の接点にしている鳥井も感情的に引きずられ、子供のように心細くなってしまうらしい。どう見ても異常な友情である。ミステリーとして、青春小説として非常に面白くはあったが、この一点でどうも相容れない感じか。解説で北上次郎が絶賛している。