本・花・鳥(ほん・か・どり)

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信長の原理/垣根涼介

信長の生涯を、彼が追い求めた原理に基づいて描いた歴史小説


信長の描写自体は目新しいものではない。子供の頃から短気で狷介で非常識な振る舞いを続ける性格は、家中でも嫡男としてふさわしくないと眉をひそめられているが、目のある家臣は信長の独創性に気付いており、孤立しがちな信長に近づいてみたりする。


蟻を観察していた信長は、働き者の蟻が二割、働き者の蟻に影響されて動くのが六割、役に立たない蟻が二割いるのに気付き、戦の時の武者の動きも同様であることを発見する。これをすべて働き者にしようと知恵を絞るが、精鋭を集めても同じようなことになり、この原理を生涯考えることになる。


信長に謀反を起こす明智光秀は、当初、有能さを買われ、光秀も自身の思考とピタリとはまる信長に見出されたことを喜んでいるが、人使いの荒さを見ていて自分もいつ使い捨てにされるか分からないという不安も抱くようになる。有能さと小心を併せ持つ光秀の描き方が上手い。


秀吉や極悪人松永久秀の描き方も同様に個性的で面白く、他の部下と信長の関わり(葛藤もあったりする)もなかなかに読ませる。


自身の追い求めた原理によってやがて身を滅ぼすことになるのは皮肉だが、さすがミステリー畑の著者らしく、謎をはらんで楽しませる歴史小説だった。 

信長の原理

信長の原理