本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

花はさくら木/辻原登

朝日夕刊に連載されていた時代小説である。

時の老中・田沼意次は、江戸に、大坂に負けないような経済機能を持たせたいと考えている。そして、朝廷に莫大な献金をし、鴻池とタッグを組んで巨利を得ている豪商北風組を潰そうと画策し、配下を送り込むのである。

北風は反幕の旗印として淀君の血を引く菊姫を拉致し、己の娘として養育しているが、菊姫は智子内親王(後の後桜町天皇)の親友でもある。そして、皇太后と田沼の思惑が一致して北風を追い落とそうとする暗闘の幕が開く。

田沼配下の薬込役(御庭番)の青年・青井が菊姫と恋に落ち、ロミオとジュリエットかと思うと、智子内親王はお忍びで大坂へ遊びに出かけたりして、このあたりは「ローマの休日」である。ちょっとしたくすぐりという感じが楽しい。

ここでの田沼は有能で清爽な壮年の男として描かれており、現代の切れ者ビジネスマンという感じでもあろうか。部下思いのところも現代的で、青井への思いなどちょっとホロリとさせる。

終盤、荒唐無稽な展開になり、着想は面白いながら全体に冗漫に流れていった感は否めない。読後の不満足感はどこから来るのかと問えば、恐らく題材を詰め込み過ぎて消化不良になっているのだろうと思う。



同じ作者による「翔べ麒麟辻原登」は、唐の都に派遣された貴族青年の「三銃士/デュマばりの活躍を描いたもので、大変に面白い歴史青春小説である。こちらは文句なくおすすめ。