本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

地図と拳/小川哲

日露戦争から第二次世界大戦後まで、満州における架空の街、仙桃城を舞台に長いスパンで描いた歴史空想小説。


日露戦争での薄氷の勝利により満州を手にした日本帝国。日本の傀儡国家に街を作ろうとするが、満鉄、関東軍憲兵隊、抗日運動、八路軍軍閥、経済人など様々な思惑が入り乱れ、重厚で複雑な物語が展開される。


地図を作るとは版図を広げることでもあろうし、純粋に土地を知るということでもあり、地図に憑かれた人間たちが登場する。そして拳とは様々な暴力や武力であろう。


登場人物は多いが、主要なのは須野明男(すのあけお)と丞琳である。明男は子供の頃から時間や気温や湿度などを計測することに熱中する変わり者だが、建築の道に進み、美しく快適な建造物を目指して邁進する純粋な男でもある。


かたや丞琳は軍閥の娘であるが、特殊な出生から父親を憎んでおり、過激な抗日運動家として登場する。二人の人生は時折交わり、仙桃城の歴史を刻んでいくのだった。


要約するのがなんとも難解な小説で、軍事、政治、歴史、闘争などが複雑に交わり、長大な物語を展開する。そこには悲劇もあるが希望もあったりして、ぐいぐいと読ませるのだ。面白かったかと聞かれれば面白かったと答えるが、再読するかと言われれば躊躇するかもしれない、読むのに根性のいる小説である。