本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

芙蓉千里/須賀しのぶ

ガールズ大河小説と銘打った三部作の第一巻。日露戦争後、満州建国前の哈爾浜で日本人の経営する遊女屋に売られてきたフミが、名芸妓芙蓉として売り出していくまでを描いている。

十二歳のフミは元々は角兵衛獅子の子供である。父親(養父であるらしい)が芸者と出奔して捨てられ、女衒に「あたしは日本一の女郎になる」と自ら売り込んできたという変わり者で、勝ち気でやる気満々ながら容貌は色黒で貧相と、なかなか魅力的なキャラクターである。ひとつ上のタエはおっとりとした少女で、初潮が来たら客を取らなければならないことに鬱々としている。人身売買が大っぴらにまかり通っていたのが戦前なのだなぁと、このあたりを読むと慄然とする。

フミは、タエの声の良さに目を付けて内芸妓(遊女屋が抱える芸者)になれるのではないかと角兵衛獅子の特訓を授けたりするが、そう上手くは行かず、フミに芸妓の素質を見いだしたタエが自分の遊女デビューと引き替えにフミを芸妓とするよう女将に交渉するのだった。おっとりしてみえて実は芯の強い少女という設定はありがちだが、うーむ、強くて頼もしい。

芸妓となるからには旦那(主要な客兼バックアップするパトロンというところか)が必要で、そこに現れたのが黒谷というお坊ちゃんである。華族の子弟で金持ちで容貌は勝れ、お高くとまってはいても根は繊細で優しいという、実に旦那にぴったりの客だが、女を近づけないと公言していて、旦那として振る舞いつつさりげなくフミを後見する。辛い過去を持っていて、この二人の友情とも恋情ともつかない関係がなかなかに切ない。

フミが思うのは山村という胡散臭い男で、十二の時に荷物をすられたのを助けられ一目惚れしている。怪しげな商売をしていそうで一癖ありげで魅力的という、これはもう激動のヒロインの相手役にぴったりだ。これからの展開はこの二人の男の間で揺れ動いていきそうで、興味を持たせる。

ケータイ小説サイトに連載されていた作品だそうで、時にギャグにはしる台詞回しとか、際だったキャラ設定とか、少女漫画を彷彿とさせる。舞台が日露戦争後の大陸となれば、「はいからさんが通る」を思わせるが、影響としてはどうなのだろう。ともあれ続巻が楽しみだ。