八篇の時代小説が収められた短編集。それぞれに関連はなく、多彩な話が詰め込まれている。
「ぞっこん」は筆供養に出された筆が来し方を語るというもので、寄席文字の名手となった若者が出世していくまでと、職人に関わる人間のエピソードが読ませる。
「千両役者」は、芝居小屋の大部屋で出世出来ずにふてくされている若い役者が一念発起するというもので、役者の華と意地を上手く描いている。
表題作「福袋」は、大食らいで離縁された姉を大食いコンテストに出場させて賞金を稼ぐ弟の浅はかさを描いたものだし、その日暮らしだった若者が商売の面白さに目覚め、気のいい兄貴分をうち捨てて出世していく「ひってん」(貧乏の意)など、どの作品も存分に面白い。単に滑稽や人情のみを描いてはおらず、人間の愚かさへの皮肉な視点もあり、ただの人情噺では終わっていないところが秀逸。