本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

木暮荘物語/三浦しをん

古びた木造アパート木暮荘に住まう人々を少しずつ重ね合わせながら描いていく連作小説で、冒頭と最終篇がつながるようになっている。

三年前にふらりと旅立ってしまった風来坊カメラマンの恋人を諦め、新たな恋人とつきあい始めた坂田繭のもとにまたふらりと並木が現れる。困惑する繭に構わず、図々しく居候し始めた並木は、脳天気で天真爛漫な男として描かれており、そのまま終われば「ハートウォーミングな人情小説」になっていただろうが、続きの物語がそうはさせない。

大家の爺さんは瀕死の友人が「妻がセックスさせてくれない」とぼやきながら死んでいったことに羨望と嫉妬を持ち、自分もセックスがしたいという妄念に取り憑かれるし、二階の畳を剥がして一階の女子大生を覗く会社員はいるし、人間の愚かな部分容赦なく描くのだが、どこかしら滑稽に描いており、気持ちの悪いままでは終わらないところがよろしい。

ま、気持ちの悪いまま終わった方がより文学的ではあるかもしれないけれど、そういうのは苦手だからこれでいいのだ。