食物としての肉をモチーフにした、コミカルでほろりとさせる短編集(最初の一篇はややブラックだ)。特に印象に残ったのは「アメリカ人の王様」と「肩の荷」の二篇。
「アメリカ人の王様」は、祖父に上品で粋な生き方を仕込まれた商業デザイナーが婚約者の父親とのギャップに悩むというものである。フランクで豪快で、脂っこい濃い味の物が好きと言う(将来的な)義父)に、己の好みとあまりにも違うものを感じて悩むのだが、ちょっとしたきっかけでギャップを理解できてしまう。この過程がなかなかに読ませる。
「肩の荷」は、加齢をひしひしと感じてきた中年サラリーマンの滑稽な悲哀と自虐をにじませつつ、ちょっとした思いやりがしみじみとハートウォーミング。
最終篇の「ほんの一部」は生ハムの官能性を描いてこれも上手い。
「肉小説集」というタイトルから何となく生々しくエロティックなニュアンスを想像していたが、その方面はほどほどで、ほとんどは心穏やかに楽しめる。それにしても多彩な作家だなぁ。