昭和十年、公家華族の令嬢である笹宮惟佐子が友人の死の謎を解き明かそうとするミステリ仕立ての小説だが、やっぱり純文学畑の作家のせいか、謎解きの興味とともに、戦前の社会を綿密に描き出している。
主人公の惟佐子は数学と囲碁を好み、かなり素っ頓狂な性格もあってかなりぶっ飛んだお嬢様ぶりに描かれており面白い。
数少ない友人が富士で心中を遂げたことに違和感を持った惟佐子は、かつての「おあいてさん」だった牧村千代子と共に謎の解明に乗り出すのだった。
余談だが「あおいてさん」とは元々の家来筋の家から選ばれた遊び相手で、佐々木邦の「苦心の学友」も言わば「おあいてさん」だったんだなぁと思い起こす。
惟佐子の父、笹宮伯爵は天皇機関説を排撃する貴族院議員で、自分では陰謀家であると自負しているが、騒ぎの尻馬に乗りたいだけの小物であることを惟佐子に見抜かれており、その辺の描写がユーモラス。
2.26事件をモチーフに、きな臭い雰囲気が漂い始めた社会背景を克明に描いているのは現代との対比かしらんとも思う。妙な策謀やらカルトめいた妄想やら、何となく現代とリンクしているような気がするのだが。そういう緻密な描写があってこそ、謎解きの面白さが生きてくるような気がする。
度はずれている惟佐子に対し、初の女性写真家として頑張る千代子の常識的な生き方を最後に持ってきて、不気味な物語にホッとした感をもたらしているような気がする。
しかしまぁ大冊であり、これがエンタメなら克明な描写は省いているのだろうなと思ったことである。
- 作者: 奥泉光
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/02/07
- メディア: 単行本
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