本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

童の神/今村翔吾

土蜘蛛、鬼などと差別され、敵視されてきた土着民の戦いを描いた時代小説。伝奇好きとしてはこういう話はなんともたまらない。


平安時代、山中に盤踞する土着民を同化させようとする動きがあり、一度山を下りた彼らだが、政権(作中では京人(みやこびと)と呼ばれる)に騙され、山に籠もることになる。


少し下って、本作の主要人物である桜暁丸(おうぎまる)が登場する。越後の豪族の息子だが、母が異国人であるため幼少時より差別されてきた少年である。大らかで民を思う父親からは可愛がられ、山の民の出である師匠に剣と学問を習って頭角を現していたが、京の貴族による収奪が激しくなり、ついに父は攻められ、桜暁丸だけ逃げ延びる。


京に出た桜暁丸は貴族の金品を奪う盗賊となるが、その際に袴垂(はかまだれ)という義賊と知り合い、兄弟分に。袴垂は貴族の出でありながら土着民との和平を願って義賊となった変わり者である。袴垂から影響を受けた桜暁丸だが、平和な日々は続かず。袴垂に影響を受けた桜暁丸は成長しながら土着民と同化し、戦いの日々を生きるのだった。

 
京が土着民を攻めるのは同化させるのではなく、隷従させるためであり、桜暁丸の戦いは平等に生きさせよという主張。各地の山の民をオルグし、京に敵対する一大勢力を作り上げる戦いは、自由を弾圧する政権と対する勢力を描く北方謙三歴史小説を想起させるがどうだろう。


大江山酒呑童子と呼ばれるようになる桜暁丸に対し、源頼光渡辺綱が征伐する側になるが、彼等の上位に位置する藤原道長源頼光などは醜い権力者として描かれており、このあたりも北方歴史小説を思わせる。


「差別する対象がなければ庶民の恨みが政権に向く」と言う一節があり、これは昨今のヘイトを批判しているのだろうなと思った。


自由を求める戦いは決して楽観視できないが、明るい未来をわずかに思わせて物語は終わる。読み応えのある平安時代小説だった。

童の神

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