本・花・鳥(ほん・か・どり)

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エーミールと三人のふたご/エーリヒ・ケストナー 

エミールと探偵たちから二年後の物語。前作同様にちょっとした活劇を交えているが、14歳になったエーミール(訳者が違うので、主人公がエミールからエーミールになっている)が大人になることの悲しみを知り、少し成長することも大きなテーマである。

愛する母と二人で暮らしてきたエーミールだが、母に再婚話が持ち上がる。相手のイェシュケ警部は善良な中年男で、エーミールとも仲がよいが、母との暮らしに突如割って入ってきた異物にエーミールは思い悩む。しかし、母の幸せのことを考え、喜んでいるふりをするのだ。

前作でエーミールを助けた教授は法律顧問官の息子で裕福な家庭に育っているが、大叔母からバルト海沿岸にある別荘を遺贈される。そこで一夏を過ごさないかとエーミールに誘いがあり、思い悩んでいたエーミールは再婚を喜ぶ母のためにわざと家を空けるのである。

バルト海沿岸のリゾートに集結したかつての探偵たちは二年分成長しており、以前はいかにも子供子供していたが、グスタフは番長となっており、教授は思索深い勉強家になっている。ボニー・ヒュートヒェンはおてんばに磨きがかかっているし、毒舌ぶりは祖母譲りかもしれない(笑)。ちびのディーンスターク(火曜日くん)はあまり成長していないが、相変わらず律儀で優しくて善良で、こういう人物がいるから他の登場人物が引き立つことを考えると実に主要な役割だ。

少年たちのああでもないこうでもないという話を聞いていた教授の父親は、少年たちに「おのずと自分たちをのばす」機会を与えるため、大人たちとボニー・ヒュートヒェンとはバルト海を横断して北欧に滞在することを思いつく。そして少年たちは、貴重な体験することに・・・。そしてここでまた少年たちの義侠心が発揮される。強い責任感と行動力のエーミールの活躍も読ませるが、律儀に行動し、友への思いやりを見せるディーンスタークも魅力的だ。

すべてが解決し、帰ってきた祖母とエーミールが語り合う場面も素敵だ。辛い決断をしたエーミールに対し毒舌祖母が「えらい!きょう、あなたはおとなになったのね!はやくおとなになった人は、長いことおとなでいられるよ。じゃあ、おばあさんが溝をとびこえるのが助けてね」とのたまうのだ(笑)。エーミールと母親との絆は、ややマザコン気味の感もあるが、おそらくケストナー自身の母親への思いを投影しているのだろう。

少年たちの明るい活躍と共に、大人になる悲しみを描いて読ませる。