本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

お縫い子テルミー/栗田有起 

「一針入魂 お縫い子テルミー」の名詞を持ち歩く、流しの仕立て屋テルミーの独白が楽しい中編小説。

祖母・母・テルミーの三世代家族は常にどこかの家に居候し縫い物をすることでたくましく生きてきたが、テルミーは自分に頼りっぱなしの甘ったれな母親に嫌気が差し、上京してきてしまう。歌舞伎町でアルバイトを始め、ステージ歌手のシナイちゃん(歌一筋で女には目をくれない女装で侠気溢れる硬骨漢。なんとなく美輪明宏を思い出させる)と出会ったテルミーは、彼への想いを針に込め、プロのお縫い子として生き始めるのだった。

自立しているテルミーのエネルギッシュな生き方がたくましく、テルミーの仕立てた服で幸せを手に入れる顧客のエピソードも微笑ましい。上を向いて歩いて行く最終場面が何とも気持ちよかった。

併載の「ABARE・DAICO」は、母親と暮らす小五の誠二少年が直面したトラブルと、何でも優秀な転校生オッチンとの友情を描く中篇。

体操服を失くしてしまい、思いつきで時給100円の留守番を始めてしまった誠二は下着泥棒の疑いをかけられ、それはすぐに晴れるのだが、他人の目が耐えられなくなってドロドロしたものを抱え込んでしまう。そこからいかに抜け出すかが読みどころ。

なんでも出来るように見えるオッチンもコンプレックスを抱えていて、オッチンの持つ闇も深い。「俺たち二人でユニットを結成しよう」と持ちかけたオッチンが最初に持ち出しのはピンポンうんこで、要するに他人の家のトイレを借りてしまうと言う他愛なさが笑える(笑)。

二篇のどちらも読むと前向きな気分が楽しい。