本・花・鳥(ほん・か・どり)

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世界・わが心の旅 中国 水滸伝・任侠の夢/平岡正明

「世界・わが心の旅」は以前にNHK-BSで放送していた紀行ドキュメンタリーで、著名人が思い入れのある地を訪ね、思索的な旅をするスタイルが興味深かった。この水滸伝の回は見逃したような気がするが、登場した旅人自身が筆を執り、出版物としてもシリーズ化していたようである。

先頃亡くなった平岡正明は元は学生運動のリーダーだったと聞いているが、水滸伝への思い入れはそれ故なのだろう。自主講座の「原典で読む水滸伝研究会」なども開催していたらしい。

梁山泊に集った豪傑は反体制の革命家なのか、それともお上に楯突くアウトローなのか、まぁその両方であるところが魅力なのだと思う。梁山泊をたずね、晁蓋宋江の子孫にインタビューし、武松や魯智深の痛快なエピソードを語り、実にその愛好ぶりがしのばれるレポートである。

二十年以上前に平凡社の中国文学全集の水滸伝を読んでいるが、内容についてはすっかり忘却の彼方である。わりあい最近に読了した北方謙三(やはり学生運動の経験者である)の水滸伝の印象が強いが、北方版は伝奇的な要素は排除して、反体制運動に身を投じた人間たちをリアルに描いており、平岡正明の立場からするとどんな感想を持ったのか、ちょっと興味がある。北方版水滸伝は真面目すぎると考えるのではあるまいか。平岡自身、先祖に侠客がいるような家系であったらしく、だからこそ大衆芸能など周縁に関する評論をものしてきたのではないかと思うし、だとすれば、やくざ者が活躍する水滸伝にこそ熱い思いを持つのではないかと思うのである。

著者の訪ねた梁山泊は、すでに水は干上がり、荒地に立つ山になっているようだが、聚義庁跡などが実在すると聞くとミーハーとしてはやはり心が躍る。しかし、国家に降伏した招安後には忠義堂と名前を変えたそうで、なんだかがっかりさせられた。

北方版の豪傑たちは国家との戦いの中で滅んでいくが、原典では正規軍に組み込まれ、各地の戦闘の中で使い捨てにされていくところが悲しい。しかしその悲しみもまた水滸伝の魅力のひとつなのかもしれない、とも思う。

ドキュメンタリー撮影の裏側なども面白いが、やはり著者の思い入れが強く感じられる紀行である。