本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

定食屋「雑」/原田ひ香

夫から急に離婚を切り出された沙也可。繊細な味を好み、酒は食事とは別に嗜むものだと思うような、やや潔癖さのある女性だが、夫からはそれが窮屈に思われてのことだった。


当初は夫の浮気を疑い、夫が出入りしていた定食屋「雑」で求人があったのを幸い、潜り込んでみた沙也可である。この展開はちょっと不可思議。


ぞうさんと呼ばれる太った老女が営む定食屋は、味付けはすき焼きのたれやめんつゆを使うようなざっかけない店だ。客は酒で食事を流し込むような食べ方をする感じで、これも沙也可の癇に障る部分ではあったが、乱暴なようでいて思いやりのあるぞうさんや、店の常連客とのやり取りの中で己の至らなさを知り、生き生きと店に馴染んでいくのであった。


粗雑な味付けのように見えてぞうさんの作るコロッケや唐揚げは美味で、客の人気商品でもあり、その辺の描写がすごく美味しそうだ。年齢を越えての交友関係も気持ちよく読ませる。ぞうさんの来し方もしんみりとさせ、この作家は人情の描き方が上手いなぁと思わせた。


食味と人情を絡めた小説はなんかありきたりで食指が伸びないのだが、本作はありきたりではなく、食わず嫌いはいかんなと思う。