本・花・鳥(ほん・か・どり)

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付添い屋・六平太 龍の巻  留め女/金子成人

久世光彦と組んで数々の面白いドラマを送り出してきた脚本家による時代小説シリーズ。以前から気になっていたが、あれよあれよという間に巻を重ねているので人気があるのだろう。

主人公の秋月六平太は、かつては信州十河藩の供番(殿の籠先の護衛)だったが、父の後妻の兄が藩内の政争に巻き込まれて出奔、父親は責任を感じて切腹、自身も藩を追われ、血のつながらぬ妹と浪々の暮らしを送っている。

腕が立つので付添い屋(商家の婦女が出かける時の護衛)で身を凌いでおり、
武家暮らしに未練はないものの、正業に就いてはいない鬱屈を抱え、市井の裏側とも繋がっているという、なかなかに魅力的な設定だ。

妹が義兄にそそぐ視線、馴染みの女・おりきの気っ風の良さなど、折々の筋立ても読ませるし、世の理不尽に泣かされる弱者のために剣を振るう姿も痛快。

市井の人々の中で生きているうちに武家のばかばかしさを痛感するようになり、再仕官など真っ平御免と考えているが、過去のしがらみが時折絡みついてきてなかなかにスリリング。短編ごとの、護衛にまつわる事情も読ませる。
 
この設定は藤沢周平の用心棒日月抄シリーズを思わせるし、シバレン原作の「御家人斬九郎」の脚本を担当していたそうだから、先達の面白い部分を消化して自分流に仕立て上げた感じか。読み進めるのが楽しみだ。



カバーイラストは「仁」原作の村上もとかだそうだが、あまりに漫画チックなカバーは興を削いでいる感。