本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

昨夜のカレー、明日のパン/木皿泉

夫婦共同名義の人気脚本家による連作小説。中心になる登場人物は28才で未亡人のテツコと義父(テツコにはギフと呼ばれている)であるが、その周辺の人物も含めて、ハートウォーミングでちょっと切なくてユーモラスな物語が綴られている。

若くして夫を亡くしたテツコは、やはり男やもめのギフとそのまま同居している。初老の気象予報士であるギフは飄々とした小父さんでやや奇人であるが、この義理親子の会話が何とも楽しい。強く生きているテツコもやっぱりちょっと変人だし・・・。

更に、笑えなくなった元客室乗務員、笑いっぱなしで診察出来なくなった元産婦人科医、バイク事故で正座出来なくなり廃業した元坊主など、ギフとテツコ周辺の事情も可笑しくも物悲しく、読ませる。

どの人物も何かしら身近な死の影を引きずりつつ、それを否定せず、生きるよすがとしている感じがいい。