本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

銀の猫/朝井まかて

口入れ屋(今で言えば派遣業と職業紹介を兼ねたようなものか)から派遣され、商家や武家で介抱(病人や老人の介護)を行う介抱人を主人公とした時代小説。言わば江戸時代の訪問介護小説である。


主人公のお咲は、金にだらしない母親が婚家の舅に無心したため離縁され、母に渡された金が婚家への借金となり、女中奉公よりわりのいい介抱で稼いでいる。派遣された先の事情は様々で、それを活写するのがやっぱり著者ならではの面白さ。人間関係の描き方など上手いものだ。


母との確執も読みどころで、異様に美しく、生活はだらしなく、老いを恐れており、お咲の金に勝手に手を付ける母親の自堕落ぶりがなかなかぶっ飛んでいる。母に早く死んで欲しいと思いながら一緒に暮らしているお咲の心情も複雑だ。


介抱の仕事は決して楽ではないけれど、利用者と心を通わせたり、介抱という仕事に生きがいを見出していたりするのは現代の介護を念頭に置いてのことであろうか。


がめついけれど親身でもある口入れ屋の経営者夫婦もなかなか楽しい造形だ。


江戸時代の訪問介護を描いて読ませるし、人々の真摯さが胸を打つ。
 

銀の猫 (文春文庫)

銀の猫 (文春文庫)