小児医のふらここ堂を舞台に、一人娘おゆんの様々な哀歓を描いた時代小説。
おゆんは母がおらず、父の営むふらここ堂を手伝っている19の娘で、てきぱきとしているが引っ込み思案。幼なじみの次郎助(お調子者だが生一本)が小児医見習いとして住み込んでいるが、のべつ憎まれ口をたたき合っていて、この二人が最終的にどうにかなるのかと思わせる。
父の天野三哲が度外れている。お調子者ですっとんきょうで口が悪く、名誉欲は強い。藪医の評判でふらここ堂は閑古鳥が鳴いているが、その割りにやるときはやるので、なかなかカタルシスを見せてくれる人物だ。たまに訪れる患者の描き方も秀逸。
おゆんの母親代わりであったお安さん、口の悪さとけちけちした部分では三哲に劣らない、エネルギッシュな産婆のお亀婆さん、武家上がりで薬屋の手代の佐吉(この男の来し方も切なく描かれる)など、脇役たちもキャラが立っていて秀逸。
おゆんの成長や三哲の活躍などをじっくり読ませて、痛快かつ読後感の良い時代小説だった。
- 作者:朝井 まかて
- 発売日: 2017/11/15
- メディア: 文庫