本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

おまえさん/宮部みゆき

ぐうたらで役立たずを自認する町奉行所同心の井筒平四郎と、平四郎の妻の甥っ子で、井筒家の跡取り候補である弓之助(頭脳明晰な美少年だが、夜尿症が心配な14才)が事件の謎を解く、お江戸ミステリーの第三弾。

今回の謎は、街中で斬り殺されていた身元不明の男と、皮膚病の薬がヒットしている生薬屋「瓶屋」主人新兵衞の斬殺事件である。切り口が一致していることから同じ下手人の犯行と思われ、被害者の過去を探っていくうちに二十年前の因縁がよみがえり・・・、と言った感じで、連続殺人ミステリーが進行しつつ、時代小説らしい、義理と人情の物語が展開される。犯人の心理もなかなか不気味で、ミステリー結末にふさわしい。

本書は上下二分冊の大冊である。事件の謎は弓之助が上巻で解いてしまうから、下巻は登場人物たちを輻輳させて話を膨らませているが、そこまで膨らませる必要があったのかやや疑問。それぞれのサイドストーリーも面白くはあるのだが、このボリュームは欧米の弁当箱ミステリーの影響だろうか。

今回、平四郎と行動を共にする新米同心の間島信之輔が登場し、生真面目で誠実な性格を見せるが、本人もコンプレックスを持つ不細工ぶりが事件を迷走させ、美少女に翻弄されることになる。弓之助の三兄、淳之介も軽薄な遊び人ぶりを披露して活躍するが(桐谷健太が浮かんできた)、今後もシリーズが続くなら新登場の人物たちの活躍が楽しみだ。